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【おはよう 番外編 その3 銀の山藤】

5月7日開花

飛騨高山の里山に左官の挾土 秀平ハサドシュウヘイがSDGsを考えて作った里山に咲くヤマフジ銀の山藤
飛騨高山の里山に左官の挾土 秀平ハサドシュウヘイがSDGsを考えて作った里山に咲くヤマフジ銀の山藤

銀の山藤

 

30代の半ば

あてもなく知らない林道を深く進むのは

俺の逃げ場所であった

鉄筋コンクリートの現場と

人間の体裁と駆け引きにうんざりしていた日々。

 

山に入ると常に土を見つめていた

名も知らぬ野草を眺めていた

崩れた崖の岩くれ 

薄暗い杉の隊列

腐葉土に光る水のなまめかしさ

不思議なキノコの色彩の魔力

冠雪した北アルプスの美しい厳しさ

そこで俺は駆け引きの息を吐き

身体と肺を洗っていたのだ

 

今から12年前 山深く林道を進んでいたのは

熟知した野草や土を集め

自分の理想郷を造る目的に変わっていた

そんなある時 

不思議な藤を見つけたのだった

山藤はふつう紫色の花を咲かせるもの

時折 民家の庭に咲く真っ白な藤を見るけれど

これは普通 山には自生していない

しかしそこに見たのは灰色白い藤の花であった

こんなのは見たことがない

言いようによってはこれを銀の藤と名付けて

今造っている理想郷に咲いていたならと考えると

心が湧きたったものだった

 

急な山の斜面 仲間を連れてその一部を持ち帰り

12年が経った

毎年楽しみにして12年咲かなかった

そのうちにあれは幻だったか見間違いだったかと

記憶は薄れゆくばかり…

それが13年目の今

ひとつだけ蕾を持っていたのである

まだ固い蕾は紫色を帯びていて

あー やっぱりこれは普通の山藤で

それにしても俺が見たのは何だったんだろう

そんな諦め気分の中で花は開いた

あの時の記憶は確かだった

花は山藤の紫をうっすら帯びてはいるものの

灰色であり 白であり やはりこれは銀の山藤と名付けられるものだった

心が湧き立つ

よし この藤で藤棚を作り

銀の藤が壮観に連なる風景を夢見ることができる

13年目の春からあと何年後?

それまで強く生きなきゃなと

自分の命を握りしめていた