4月10日羽化
2011年の5月
東京財団の企画による日本再発見塾という集いで、福島県飯館村役場を訪ねた
その日は、村が全村避難となる前日で
直接、村長の口から、今置かれている実情の残念さを聞いた
移動中のバスの中から見る山村は
放射線があるというだけで
雑草が一斉に茂りだした田畑は
むしろ生き生きと感じられて…
しかしこの風景が日を追うごとに
人から離れた自然の姿になって
変わりゆくだのだ思って見直すと
人けのない風景と、ただ注ぐ光が
そら恐ろしいものに見えていた
人間一辺倒か、自然一辺倒か
どちらか一方でしか成立しない未来を思った
今、この樹林の中に立ち
ポッカリと暖かな午前
日々、強くなってゆく乾いた陽射しが
あの日の飯舘村と
全く変わりない不思議さを感じていると
ハラハラと繰り返し舞っている一羽の蝶を
気にすることなく、育ててきた山野草の成長を確かめていた
3年前から植え込んでいた≪アオイ≫に振り向くと
そのあおいを中心に蝶が舞っている
まさかなぁ?
…調べると
紛れもない、あのギフチョウが
この森の目の前に舞っていたのだった
*ギフチョウ*
前翅長:30~35mm 出現期:4月~5月
分布:本州 越冬態:蛹
春の女神と讃えられる鮮やかなギフチョウは
サクラの開花に合わせて春の2週間だけ カタクリやスミレ類などが咲き揃う野山を舞う
四季の美しい日本での自然界の最高傑作ともいえる
芽吹いたばかりのカンアオイの葉に卵を産み幼虫は若葉を食べて成長し
初夏には地面に近い場所で蛹となり翌春まで眠りにつく
ギフチョウは雑木林のシンボル
伐採などで森林に太陽の光が差し込み
その隙間を渡り歩いてギフチョウの分布が広がった
一方で大規模な土砂崩れや洪水が起こらないように治山が進められて来たため
隙間が失われ代償生息地である里山にのみ生き残った
その結果、ギフチョウは人が里山に手を加えなければ絶滅してしまうため
絶滅から守るためには林の維持管理が必要となっている
そのため各地で保全活動も進められている
ギフチョウ=絶滅危惧2類(VU)
大袈裟だと言われそうだが奇跡に思えた!
ドラマはここから始まった
日々≪アオイ≫が消えていくのである
折角のギフチョウを呼び込んだアオイが
消えていくのが残念で仕方なくて
しばらくしてあおいを覗き込んで その異変の理由がわかった
真っ黒な毛虫がアオイの葉をすごい勢いで食べているのだ
なんだ!こんな毛虫にやられていたんだと駆除しようとした時
待てよと手を止めた
それがギフチョウの幼虫だったのである
自分はあの時、ギフチョウの産卵を見ていたのだった
やっぱりこれは小さな奇跡だと俺達は湧きあがった…
15いた幼虫から翌年5羽、羽化した
それがこの樹林で卵を産みその翌年は20が羽化した
俺達はアオイを育て株分けするのに必死な数年を過ごした
以来ずっと30以上のギフチョウがこの樹林に舞い
この樹林に産卵しこの樹林で生まれ変わっている
ギフチョウは手を繋いだ人間と自然の象徴
このギフチョウを俺は勲章だと思っている
令和4年4月10日 晴天 気温20度 2羽、羽化。
2011年以降一番羽化が早かった年は4月8日だった記憶がある
今日4月10日 過去2番目の早さである
カタクリ満開 飛べギフチョウ。